右サイドバーにある**WILD CHILD**クリックで音楽を聴きながらお楽しみください。期間限定です。
エンヤの「WILD CHILD」のCDをリピートモードにして、
片手で持つには少し重すぎる『冷静と情熱のあいだ』愛蔵版を手にする。
夕立がぽつぽつと降ってきて、小説の中と同じフィレンツェの雨の匂いに落ちてゆく。
オレンジ色の屋根が私の目の中に波のように押し寄せる。
未来を拒否し、過去の歴史の中にとどまる街。
ドゥオモの鐘が街の日暮れを告げる。
あおいと順正の石畳をかけぬける靴音。
ショーウィンドウに写るふたりの濃い影。
8年の時の流れを遡り、はしゃいでいるふたりの姿がそこにある。
人を愛し続けることが唯一の真実であるから
突き動かされる情熱を誰も止めることは出来ない。
未来は希望の光となると誰かが言った。
同時に過去は自らの生きる糧になると。
けれど、そのふたつを結ぶ現在を愛することから遠ざかっていた日々。
ひとりでいることの心地よさに溺れ、
愛する人を忘れるほどの強さをもてずにいた日々。
そして、過去への甘ったるい感傷や思い出に浸って生きていくのが怖かったた日々
切り取ったようにそこだけ輝いてみえる断片に呑み込まれてしまうのが切ない日々。
あおいは雨の降る前の雨の匂いを感じることができるといった。
ほんのり生温かく、少し張りつめたような風の匂い。
それは、恋という手探りのものを見つけることに似てる。
気付いた時にはすでに恋に落ちている。
雨も瞬く間に降りだして、通りを濡らし、草花を響かせ、街を人を洗い流し、
違った色に染め上げてゆく。
クーポラの上で輪郭のない約束を待つ順正の希望にエールを送る。
神様だけが知っている未来への行き先。
それでも手にしたものを握りしめ、歩んでゆく勇気が未来を作る。
あの日、君が言った言葉を思いだした。
現在は過去と未来を結びゆく時間の積み重ね。
そして、何より現在が未来を作り出してゆく。
フィレンツェほど雨が似合う街はない。
雨が上がったなら、再び現在を生きていこう。
過去を拒否したかのようにみえるこの町は
もっとも現在を生きている人たちで溢れているはずだから。
参考書籍~「冷静と情熱のあいだ」江國香織・辻 仁成
角川書店