『サイレント・ブルー』光冨郁也著 土曜美術社出版発行 定価2000円+税
第33回横浜詩人会賞受賞作品   光冨郁也氏blog スカイラインの詩情


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私の10年来の友人である詩人・光冨郁也さんの本を紹介します。

光冨さんの詩はひとつひとつの情景やシーンが刻々と丁寧に、かつ、
歯切れよく、しかし時に淡々と、時に深く繊細な言葉によって描かれている。

彼の詩はきれいごとばかりで並べられてはいない。
時として、私たちが見たり、聞いたり、知ったり、或いは経験せざるを得ないような
この世界の汚れといったものもきちんと映し出している。
常に透明感があり、繊細である。

光冨さんの詩には、痛み、傷、孤独、悲しみがつきまとっている。
しかし、それらを過剰に読み手に押しつけようとするところが全くない。
むしろ、その文体はきわめて客観的で、淡々としていると思う。
その文体に読むものは救われる。

行間に存在する空虚さは彼の押しつけない言葉の代わりに
じわじわとこちらに何かを訴えてくるが、それもまた決して過剰な
悲しみや苦しみの押しつけとは異質のものだ。

私はサイレント・ブルーの中では「白の誕生日」が好きだ。
本になる以前からこの詩は大好きな詩のひとつだった。
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その詩の中の一節を書いてみる。
*
十年前、
私の上に、
降り注いだ雪は、
決して美しいだけの、
冬の情景ではなかったが・・・・以下中略

それでも待っていた、
雪はまだ降らないのかと。
暖房をいれずに、
生まれたときと同じように、
雪が降りつもらないかと。
*

彼は今も雪が降るのを待っているのだと思う。
何もかも埋め尽くすほどの真っ白な雪。
真っ白で汚れのない、未来だけを夢見ることを
許された誕生日の朝の自分。
彼の心の中にあるのは生まれた朝への回帰。

とても切ない詩だ。
けれど、この詩を読むと、私は自分が生まれた日のことを思う。
正確には赤ん坊の私が何も覚えているはずはないので、自分が生まれたことを考える。

生きているとは楽しいことばかりでも、順調なことばかりでもない。
それでも、自分が生まれたことを考えるとき、私は改めて感謝の気持ちを持つのだ。
私にそう思い起こさせてくれるこの詩が私は好きだ。

余談ながら、光冨さんは2月、私は1月でともに冬生まれである。
光冨さんは雪の降っている朝に生まれた。
そして、私は雪こそ降っていなかったが、雪がいまにも降り出しそうな寒い朝だったと
父や母から聞かされていた。

そういった思い入れがある「白の誕生日」はこの詩集の冒頭の詩である。

機会があったら、是非手にとって読んでほしい詩集である。

P.S,:久しぶりにこの本を持ってよく行くお気に入りの公園にでかけた。
そこで本をじっくり手にとって読んだ。以前、読んだ時よりも今の方がじんわりと
私の心に沁みた。少し寒かったのでストールを持っていった。
詩集や歌集を読む時は外で読む方がよりいい。
秋のまっただ中、枯れ葉が舞う中でのひとり読書は楽しい。